むすう
宮古⻄原では結ぶことをむすうと言う。結ぶは二方が交わり生命を産み出すことであり、人の生活に欠かせないものづくりという行為の一端を担う。濃藍の宮古上布は苧麻から糸を績み幾重にも藍に染め手織りする。繊維をほどき撚り繋いで一本の糸を産むことを績むという。
島に伝わる古謡には、糸を績み宮古上布を貢納する女たちの苦労が滲み出ている。
「蛍よ蛍 塩を一升くれるから (中略) 苧を績め 苧を績め」
島の開発が急速に進む現在、女たちは蛍の光を追い求め深藍に染まった夜の海へと還っていく。
私はこの島の女性たちや植物を介して、染める・綯う・漉くという身体的行為を行い、むすうとは何かを問い続けた。
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素材:糸芭蕉・苧麻・藍・阿檀・クバ・馬糞・ガジュマル・月桃・烏賊墨・馬毛・台湾縄
コロタイプ印刷・顔料印刷・鳥の子紙
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PALI GALLERYでは10月1日から11月20日まで、山﨑萌子の個展「むすう」を開催いたします。山﨑は、当ギャラリーが新たに設立したアーティスト イン レジデンス プログラム、*PALI GALLERY AIR の第1回アーティストになります。
与那国島と東京に活動拠点を持ち、これまで写真表現に重きを置いてきた山﨑は、近年、写真を映す紙の制作にも精力的に取り組んでいます。今回のPALI GALLERY AIRでも写真撮影と紙漉きの両技法を行き来しながら滞在制作を行いました。
タイトル「むすう」は宮古⻄原の方言で結ぶを意味します。結ぶは産霊(ムスヒ)を語源とし、神道では万物を産み出す霊妙な力とされてきました。撚る、捻る等の動作から生まれる紐や綱を、人々は神秘な存在として崇めることで神の加護を受けたと言います。
山﨑は宮古島滞在中、旧盆に豊穣や雨乞いを祈る祭りとして行われる大綱引きを体験します。キャーン(和名シイノキカズラ)を採取し、東里と西里に分かれて編んだ2本の大綱の先端を結び、東西に分かれて引き合います。勝負が終われば先端部を切り落とし東⻄の御嶽に供えます。また、宮古上布を織る島の女性達と畑や海で時間をともにし、苧麻を撚る苧績みや藍建を学びながら、繊維を藍に染め縄を綯いで紙を漉きました。
これらの体験から本展のタイトル「むすう」という言葉が浮かび上がりました。「二方が結合して生命を産み出す」すべての物作りの根源と言える「むすう」。その身体的行為を通して、人や物、島を繋ぎ合わせる作業を、山﨑はここパリ(宮古方言で畑の意)で実践しているのではないでしょうか。
本展では宮古島での作品の他に、作家が拠点とする与那国島で制作された平面・立体作品も展示いたします。与那国島に生息する野生馬の糞や島の植物を用いて制作された紙に、山﨑の切り取る馬の姿が映し出されます。
*PALI GALLERY AIR=*アーティストインレジデンスプログラム。本プログラムを通じて、宮古の文化や歴史に触れながら作品制作や発表の機会を提供し、国内外問わず異なるルーツを持つアーティストが地域の人々との交流を経て、力強い文化・芸術を発信することを目的としています。*アーティストインレジデンス=アーティストが一定の期間、その土地に滞在し常時とは異なる文化環境で作品制作や表現活動を行う事。